Bird strike(車窓のひと)
恋月 ぴの
一羽の鳩が飛んでいた
わたしの乗る列車を追いかけるように
無機質な四角い窓枠のなか
黒いコートの肩越しに
羽ばたき続ける
白い鳩の
翼
※
線路を渡る架線を巧みに避けて
鳩は飛んでいた
誰かに伝えたかったことでもあったのか
希望の
明日への思いは
低く差し込む陽射しを翼に浴びて
一羽の鳩が飛んでいた
※
あなたが存在するとして
あなたを信じるとして
現実と向かい合うことなく
体を逸らすことになるのだとしても
ひとは何を祈る
幸せ
明日の幸せ
やせ細った腕を伸ばし
たわわに実った果実を安易に掴み取ろうとする
※
やがて鳩は見えなくなった
伝えたかった思いは伝わったのか
冬ばれの空
何ごとも隠しようの無いほどに晴れ上がった
空
あおい空
四角い窓枠に切り取られた
あなたの意思