かなしみ
rabbitfighter

そしてかなしみがやってくる。
前触れもなく突然に。
雨のように。
突然の雨のように。
前触れもなくやってくる。
かなしみは僕の街を濡らしてしまう。
アスファルトを黒く染める。
人々は手のひらを上に向け、
それから傘を開く。
傘はどれも暗い色をしている。
頂点から放射状に外縁を目指す。
遠くを行くものの動きはゆっくりに見える。
僕の心は首都高環状線を逆時計回りに疾走する。
あなたは時計回りに進むだろう。
ちょうど一瞬先を追いかける時計の針のように。
そのとき精神は放射線上を飛散する。
それらすべてをかなしみが濡らしてしまう。
あなたと再開するのは、あなたと出会ったのと同じ場所。
つまり僕たちは等しい速さで環状線を回り、
何度も何度も出会っては離れ続ける。
いくつもの波紋、いくつもの円、いくつもの中心。
やがて宇宙から隕石がやってきて、
アラビア半島の先端に落下する。
アデン。
そしてかなしみがやってくる。
僕の街を濡らしてしまう。
僕は世界という円盤の中心にある古ぼけたマンションの屋上からその様を見ている。
妙に暗い色をした傘を差したまま。
やがて街は水没するだろう。
沢山の傘がその水面で踊るだろう。
僕の死体だけがその中で漂っていた。


自由詩 かなしみ Copyright rabbitfighter 2012-01-08 05:43:46
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