正月の空気
木原東子
1
お正月、
特別なその日をくぐる
肩上げの晴れの着物に赤いりぼん
門松は凛々しく
遊び仲間はおすましして
行ったり来たり
どのお正月も晴れていたような
追い羽根の檜扇の実は
音高く響いた
2
成人したというお正月
華々しく車を連ね
振り袖姿晴れがましく
一族が故郷に集った
お世辞などもいわれたりして
実に美味なるお料理を
食べたが排泄物が
出てこない
恥ずかしがりの乙女ゆえ
なんにちも秘かに悩んだ
浮かぬ顔を不審がられる
思いもかけず待ち伏せされた
恐怖の晴れ着
3
末っ子が隣りで大きい
母は反対側で遅い
春日神社の石段暗く
ぞろぞろ森の中、善男善女
突然空が現れる
例の如きお賽銭お神酒おみくじ
末っ子は笑顔、そのあと鬱になるとは
知らない
長男はもう空にいた
彼の人生を済ませて
母は父を見送った後もまだまだ
もっと長く生き延びるとは
思わずに拍手を打つ
露店で小さな鳥を買う
人を感知してチチと鳴く
4
敗戦引揚げ不況好況
浅間山荘、サリン、台風、阪神と東北大震災、水素爆発
幸いにも厄災から免れて
末っ子が父となる
オトートが死ぬ
母とせめて正月を過ごそうか
老人ホームから三晩暇をもらって
驚くほどだ
赤ん坊を世話するのと同じ
こんな90歳が待っているなら
どうして生きよう
中天には昼の半月
欠けるのか満ちるのか
不明な形をして