薄墨の絆
そらの珊瑚

去年
義母が急逝した

晩年
持病で苦しんでいて
会えば
病気の苦しさばかりで
死にたいけど死ねないのよね、と言われると
そんなこと言わないでと
答えながら
鬱屈した気持ちになった

それとも
死ねたら楽になりますね、と
言ってあげれば良かったのか

もっと
寄り添って
優しくしてあげれば
良かったのだろうけど
最後まで
いい嫁でなかった私

義母の
熱く焼けた白い骨を拾いながら
涙も出なかった
冷たい嫁だった私

亡くなる
数箇月前
伸びた爪を切ってあげたこと
くらいしか
あなたのために
何かしてあげた記憶がない

あの時
あなたは
何を思って
「ありがとう」と繰り返していたのか
誰を思って
「ありがとう」と微笑んでいたのか
今となっては
もう知る由もない

骨の浮き出た枯れ枝のような手が
おもいのほか
冷たかったので
洗面器に
湯をためて温めてみた

あなたの手は
私の夫を慈しみ
育ててくれた手だったのだ
「ありがとう」と
言うべきは
私の方だったのに

「絆」って何ですか?
昨晩の紅白歌合戦で
絆という言葉が
何かの免罪符のように
安売りされて
歌われるたび
心の中で
わだかまりが大きくなる
「絆」と叫べば
それは結べるものなのですか?

「絆」を結べないうち
いなくなってしまった人には
もうこうして手を合わせることしか
できることがない

最後に触れたあなたの手の
あの
泣きたくなるような
切なさだけが
あなたとの「絆」といえば
「絆」であったといえる気がする

それは私の免罪符

そして
いつか
私が死にゆく時
誰かが私への免罪符を欲しいと願えば
天よ
惜しまず
それを与えたまえ

それが
「絆」と呼べないような代物であったとしても
私はそれを
「絆」と呼ぶであろう

新しい年がやってきた





自由詩 薄墨の絆 Copyright そらの珊瑚 2012-01-01 21:39:35
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