冬とケロイド
いかりはじめ

抗生物質のかたまりがカテーテルの空どうを密(み)たし ゆつくりと圧(お)し はいつてくる 音のようなもの 実感めいたもの 午前3時

ペンチで爪をはがれた老ばの 叫び声をきいたような きいていないような
(唖、あああ あつ ああああああつ あつ唖(あ) あああ あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ)
老ばをつつむ毛布が 体の発つするねつでゆつくり溶けて こわばりが消え 老ばになじんだ
  動物の毛だったものから 動物の毛らしさが かんぜんに失われた 音 だつたのかもしれない

みあげれば月が野蛮にあかるく みしととじた窓から しんしんと クレンザーのような光が圧(お)しはひつてくる
くちびるを ぶちぶち とさくような 音がする きがする 豆の腐つたようないろ に 染められてゆく きがする
かぼそくもろい星たちは干からび体温をうばわれて 密(ひ)つそりと 堕ちてゆくほかないのでしょうか 

あなた
わたしは ここにいます あなたのケロイドをおもひ ひとり 夜をやすりで削つています 空気は冬のよどみで粉つぽく 気管支は錆び 寂び 寂び 寂び寂び 錆(さ)びしひ 
うつくしひ おひしひ あなたのケロイド

麻酔のきいた手は わたしの手ではないようで あいせそうで 口づけをして くわえて ほほをなでさせながら
やりおえた顔 あなたを連れ去つたサンタの 不在

冬将軍は暴君でした 夜をこえ 朝をこえ 星をこえて 制止するものはなく すべてのケロイドに 自由にアクセスするわたし


自由詩 冬とケロイド Copyright いかりはじめ 2011-12-17 17:26:40
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