夏の遠さ
塩崎みあき

お昼に家に帰ると
小さな声で
ただいまを言った

黒いスカートの
ペタペタの
遠くで
おかえりの声する
廊下は冷たく
長く
知らない絵のある
知らない声の
おかえりは
うらの畑から
いつも聞こえていた
こっぴーちゃんの
お墓のあたり
のねずみちゃんの
お墓のあたり

そこまでは行かず
ペンギンの歌を歌う
黒い髪の
クルクルの
ポワポワの

『青い皿』
に入った
シシトウガラシと
ナスと
ウインナーを
しょうゆで
食べている
ふたり
お昼のテレビ
しゅくだいはにっき
はやくしておかないと
ふたりの時間は
違うテンポで鼓動
している

いつまでもシシトウガラシを
つついている
グズグズの
お昼過ぎのテレビ
ウトウトの

窓の外で畑に
人影が揺らいでいる
日差しがつよくて
よく見えないけど
ぷちぷちと
何か切る音がしている
ギラギラの

日差しが
ふたりをとおざける

サラサラの
しおかぜふく
なつの昼下がりの

勝手口のあたりで
水を使う音のする
上ぐつを洗うのを
ためらっている
上ぐつに
キレイな形の
名前を書いてくれる

勝手口の
キイと開く音の
イライラの
オドオドの
宿だいの日記が
頭の上をよぎる
テレビつけっぱなし
いいわけしている
あまえてる
全ておみとおしの
気付かないふり

あつい
あつい
お昼に食べた
シシトウガラシの事を
考えながら
日記を書きながら
テレビを聞きながら
眠りながら
腕は塩辛い

冷蔵庫の冷たいお茶は
いつも苦い味がした
勝手口が開いて
しらない手が伸びて
お茶はそうして
減ってゆく

はやく大きくなりたい
と思ったけれど
夏は
終わらない気がした
全てが
終わりない気がした
全てが
すべて

ばかりだった








自由詩 夏の遠さ Copyright 塩崎みあき 2011-12-16 19:16:44
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