寒いアロワナの星
根岸 薫

里におりて
息を吸ったひとの
肌はかなしい
湖の色に似て
過ぎぬ霧
のように

  ◆

いつもと同じ
列をつくり
くらべていた
  魚の
まなざしを含めて

  ◆

傘をさした人が
また
ひとり ふたり

くるしみ
群れて
野に出て はたらく
非常にしあわせである
(そのかけ声は
たしかにきこえていた)

  ◆

自転車に乗った
男が
湖底をゆっくりと行く
前に進むたび 腕の
骨が
少しずつあらわれる
(か細く)

  ◆

  おまえ

  手をつないでほしい

  ◆

絵をかいていた
ふるい友人は
沈んだ船の
せまいところで
浮き輪をたしかめている

  ◆

新聞は
どこ、
ですか

  ◆

だれもみなゆきばをなくして

鳥だけがたかいところにいる

  ◆

あいにくの雨に
うたを歌えば
積み上がり
虚像かも知れぬ
橙色の雲を
それぞれ抱えて
帰っていく声たち

  ◆

誰も知らない
寒い月夜の
かわいた公園
病気の
なかまたちが
むしのように集まり
今夜も
ゆるい泥であそんでいる




自由詩 寒いアロワナの星 Copyright 根岸 薫 2011-12-15 22:11:19
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