寒いアロワナの星
根岸 薫
里におりて
息を吸ったひとの
肌はかなしい
湖の色に似て
過ぎぬ霧
のように
◆
いつもと同じ
列をつくり
くらべていた
魚の
まなざしを含めて
◆
傘をさした人が
また
ひとり ふたり
と
くるしみ
群れて
野に出て はたらく
非常にしあわせである
(そのかけ声は
たしかにきこえていた)
◆
自転車に乗った
男が
湖底をゆっくりと行く
前に進むたび 腕の
骨が
少しずつあらわれる
(か細く)
◆
おまえ
手をつないでほしい
◆
絵をかいていた
ふるい友人は
沈んだ船の
せまいところで
浮き輪をたしかめている
◆
新聞は
どこ、
ですか
◆
だれもみなゆきばをなくして
鳥だけがたかいところにいる
◆
あいにくの雨に
うたを歌えば
積み上がり
虚像かも知れぬ
橙色の雲を
それぞれ抱えて
帰っていく声たち
◆
誰も知らない
寒い月夜の
かわいた公園
病気の
なかまたちが
むしのように集まり
今夜も
ゆるい泥であそんでいる