コテツ様
佐野権太
網戸越しに世界を見つめている
そうしたときのコテツ様は
ひどく冷静で、明晰で
私は
そのしずかな横顔に憧れる
うつ伏せて
同じ目線で目を凝らすが
すぐに飽きてしまう
私は
無防備な後ろ脚をつつく
視線を固定したまま
コテツ様はなだめるように
ふさふさの尻尾を
優雅にくゆらせる
その波長は
南洋のコテージの
天井に据えられた
大きな回転翼のように
私をうっとりと撹拌する
まどろんで、気がつくと
もうそこにはいない
探すのをあきらめたころ
ふと見あげる涼しい書棚の上に
必然のように置かれた
ちいさな毛布を発見する
そんな
いつも素っ気ない琥珀色の瞳が
まっすぐに見つめて
泣く、から
私は好物の削り節を
差し上げねばなるまい