はじめに謝っちゃおう!
花形新次

物心ついてから
俺は異常だ
怪物だ
生まれてきたことが間違いだったんだと
現実と現実の狭間で
ことあるごとに思い知らされてきた男は
この世から消えてなくなるべきだという想念にとって
最高の囚人だ

そんなとき
男の前に
思いもよらない大クライシスが訪れる
そして、このクライシスが齎す混沌こそが
怪物である俺の絶好の棲家だと確信する
朝が反転して闇となる
おぼろげな外観が寧ろ真実に近いと思われる世界
善と悪が単純なチャート式から解放された世界
俺はここでなら生きていける
消えてなくなったのはこの世の方で
この世から無用とされた、この俺が生き続けるのだ
生き続けても良いのだと

しかし、それは、自らを怪物と思いこんだときと同じように
単に幼稚な脳髄が生み出した錯覚に過ぎない
男の皮算用を一切無視して
やがてクライシスは終息し、現実は涼しい顔で息を吹き返す
男は為す術なく、ただ茫然と
再び隆起する文明の亡骸を見つめるばかりだ

男は思う
こんなはずはない
こんなことで終わるわけがない
こんなことで終わっていいわけがない
俺が生き続けられる場所があるはずだ
俺が生き続けていい場所があるはずだ
夢を見た一瞬が永遠となる場所があるはずだ

男は思う
もし闇が正義となる、あの世界が現れないならば 
もしあの混沌が二度と戻らないならば
俺自身の手で
この手で
この怪物の手で
あの闇を
あの混沌をもう一度創り出してみせようじゃないか

男は得心すると
家族から割り当てられた
四畳半の部屋を颯爽と飛び出した
勉強机の一番上の引き出しにあった、とっておきを
Gジャンの内ポケットに大切に仕舞い込んで


自由詩 はじめに謝っちゃおう! Copyright 花形新次 2011-12-08 17:55:03
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