ひかりの冬、はじまり、ひとつ。
たちばなまこと

ひかる夜のはじまり月の余韻に
雪のかけ橋多摩のよこやま



ゆきかうひとたちが家路につく
荷物と引きかえに流れ去る喧騒
遠く暮れるまちなみ
新参者のたばこのにおい

膝にまどろめ穢れ無きいのち
やわらかさが覆いかぶさる
新しいい草の香り
降りそそぐ温い眩暈

車の音、と声をこぼせば
波の音みたい、と返す
湿り気に閉まるドアは打ち上げ花火
ひとみの火花で灯る
冬の柱
白いかがり火
ひかりの祭り

おなかの中に満ちる閃光
ひとつ、ひとつ、またひとつ、と
確かなかたちを教わるように
まぶたを開ければしなやかな弓越しに
真白の太陽
まばゆい放射に暦を刻む
知らなかったくるしさ
泣き顔を引き寄せて
こぼれた砂粒が敷かれてゆく
腰を落とし向かい合う
背中から落ちる皮膜たち
寒さに服飾を纏ったまま
洗濯物と毛穴と麝香がたちこめる



ことばのはかなさ、つよさと、いとおしさ
からだの奥にしみわたり、鳴く



ふるい土地に立つ新しい生活
ひとつのはじまりに
ひとつの佇まいになれたこと
ひとつの思い出になる
永く生きるちからになる
首元のストールに手を添えて
霞む丘陵を縫って走る
月は冠を冬の星空に広げ
ふるさとの針葉樹に
まだ見ぬ雪の溜め息を飾っている









自由詩 ひかりの冬、はじまり、ひとつ。 Copyright たちばなまこと 2011-12-08 12:31:45
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