てのひらの海
そらの珊瑚
小さなガラス壜の中は海
群青のさざなみでゆらめく
海をコレクションする女は
孤独であるけれども
絶望的に孤独ではなかった
本当の海まで
もはや歩いていくことは不可能
この部屋から出るためには
幾十にも巻かれた
鋼の鎖を断ち切らなければならないが
女にはそのための道具がない
残されたものは一本のペンのみ
不幸であるけれども
絶望的な不幸ではなかった
いつかガラス壜の海に
このペン先を浸して
手紙を書くのだ
その時
文字は
かすかにふるえ
未来に向かって
滲みゆくことだろう