はじかれたけれども
木原東子


Yの充たされた世界の中に
「赤ちゃん」というものが登場した
期待するように長くトレーニングされていた
?印のものを待つ日々

ぷるぷるの柔らかな
泣いたり笑ったりするオトート
その子が動くたびに喋るたびに
Yは失望した

誰もYを見ていなかった
みんなが、特にYの父親がYへの笑みを忘れて
オトートに夢中になった
Yを中心とした輪は消えた
別の輪からYははずれ、立ち尽くした

〜彦が憎かったり嫌いだったりするのではない
はじかれたことの実感は
後年夢の中で現れた
Yは夢の中で傷ついた自分を知った


Yの弟が人並みに
あるいは人以上に人生の中で
苦しんだに違いないことを
Yは自らの痛みのように悲しく感じる
同じ血、同じ肉

〜彦がひとり生から立ち去った今
Yの使うパスワードのひとつが
使うたびにYを泣かす

アルファベッとの並びに彼の会社の名前が
透けて見えるから
大切なものすべてを置いていく彼の淋しさが
文字から沸き上がる

とぼとぼと去っていく姿が見える


自由詩 はじかれたけれども Copyright 木原東子 2011-11-29 21:31:17
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