御影石
木原東子

広大な八柱霊園の
松飛台門のそばの
御影石のそこそこの墓

運のよいYの弟が一度で引き当てた都営の墓地に
小さな喪服の一団が派手な祭壇をこしらえて
供物を盛った
多くの病の最後は餓死、Yは事実を見たなと思っている
アルコール分解酵素がないのに日本酒が好きになった奴だった

細分化された専門職が来て
納骨を準備する
地下室にひとつYの父親が入っている
二十三年間暑さ寒さに独り居た

四十九日の間に寡婦に慣れるわけもなく
Yの義妹ははしばしに夫の若死にを悼んで
白地に青い唐草模様の、せめて高価な骨壺を
撫で回した

並んだ二つの骨壺は
いかにも安い、いかにも高い、取り合わせは悪い
よく似て性格の善い、Yのふたりの近親の男を
早死にさせたのは自分ではないかと
Yはオカルト的なことを考えてしまう

Yの九十歳の母親は混乱して「若後家たいね」と
日頃使わぬ方言で言った
「若後家ってなんでそんな言い方を?」
Yはわずかに義妹の顔が曇るのを感じた

陽はうらうらと墓石を温めた

彼岸花の赤い道が
墓地を巡って至るところ
彼岸を指していた

「短歌」
お盆来て父ひとり居る熱き穴縁者すべてに呻吟続けば
熱風にさらされ悲し誰ひとり心頭滅却できもせず南無
墓前にて烈火の草抜き汗飛ばし怪しき会話話しに話す
向かふべき西国あらまし菩提樹の木下涼しく物理の涯てに
またも発つ彼の岸辺へとわがうからいづれ目見ゆと思ふ小夜月


自由詩 御影石 Copyright 木原東子 2011-11-24 13:19:02
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