私ごと
月乃助

男の話



浅くなった眠りの中で
蹄の音がしていた
となりで眠っていると思った男が
雌の鹿だといった

森の
そんな においのする男だった

神さんの住むという深山の
山間の里で
神も仏も気にもしない 男は、
そんな暮らしをしていた



女の話


女はここに 海の街からやってきた
亡くなった母の小さな家に身をよせ
この家をどうしようかと 思案にくれていた
家は古く 売れそうにもなかったし
母の荷物は 山のようにあった

女には、海の向こうに子供たちがいたが
子供は子供で好きなようにいきるだろうと、
勝手なことを想っていた
そんなことが平気な女だった



細波の話


愉楽のふねにただよう

女は、男といると
楓の葉が色づくように、肌がほてった

月の映る湖面に
小さな石が投じられ
波紋がひろがっていく

男のたくましい腕枕に眠りながら
女は、その波紋のゆくへをおっていた

いつかそれもまた
静謐な湖面へと もどってしまうのだろうと
そんなことを想いながら








自由詩 私ごと Copyright 月乃助 2011-11-23 21:48:04
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