僕らの季節
花形新次
僕らは終業のチャイムが鳴ると
思い思いの未来へと駈け出して行った
他より少しだけ辛いことの多い彼女だって
絶望なんて言葉は記憶のどこを探したってなくて
晴れやかな表情は期待のあらわれそのものだった
確かに僕らの季節がそこにあった
この世界に善人以外の何がいるのかと胸を張った
降る水滴はそのまま土に浸み込んでやがて海に流れると信じていた
コールタールのようにどす黒い汚れだって魂の漂白剤できっと洗い流せると疑わなかった
思慮が浅いことを恥じずに
些細なことに涙することを照れずに
誰かを力いっぱい殴ることを恐れずに
誰かに力いっぱい殴られることを恐れずに
傷ついた人を庇い
傷ついた自分に酔い
僕らは全力で走った
僕らは全力で歌った
そして誓った
そうやって生き続けようと
あれから三十年
人に汚れ、人を汚し
人に疲れ、金に疲れ
クタクタ、ボロボロになった僕は思い返す
そんな季節もあったなと
確かに僕らの季節がそこにあったと