ごあいさつ
はだいろ

彼女のご両親に、
挨拶に行った。
なんかのイベントのとき、
雨が降ることが、そう言えば多いので、
ぼくは雨男なのかもしれいないと、
傘を持って、
部屋を出るときに思った。

5000円のフルーツ詰め合わせを、
手みやげにと買ったら、
やたらと重かった。
総武線と、山の手線と、
有楽町線を乗り換えて、
初めての駅の改札を出たところで、
彼女に電話をかけて、
実家まで、道案内をしてもらう。

壁の赤い、趣味の悪いタイヤ屋があったり、
東京も、
ちょっと都心を離れただけで、
じつに中途半端な田舎になるものである。
彼女は、実家の近くに、
マンションを買いたがっているけれど、
ぼくはやっぱりまっぴらだと思う。

古い汚い家だと、
彼女に念を押されていたけれど、
ガラス屋さんの娘だとは、
知らなかったというか、
聞いていたのに忘れていた。
妹さんが出迎えてくれて、
おじいちゃんの家の居間みたいな、
こじんまりした部屋に案内されて、
きのう、
ネットで覚えたとおりに、
まず挨拶をして、
手みやげを渡して、
すぐに、
結婚させてくださいませんでしょうかと、
用件を済ませた。

お父さん、お母さんは、
三姉妹を育てたので、
男の子を持たなかったということだから、
ぼくの扱いもよくわからないようで、
寿司と、
お刺身と、
天ぷらと、
カレーうどんという、
よくわからないが精一杯のもてなしのような、
出前を取ってくれていた。

カレーうどんは、
なまものを今は食べられない彼女が食べた。
ぼくの故郷や、親の職業とか、
あたりさわりのない話をした。
お父さんに、
将棋はするの、とか、
山歩きは好きなの、とか、
男の子はそうゆうものだろうとゆうような、
質問をされたけれど、
ぼくは将棋はしないし、
山にも登らないのだった。

会話はさほどないので、
つけっぱなしのテレビをみんな見ている。
いまやテレビは、
旅と子供とグルメだけだと、
週刊誌で読んだけれど、
確かに、旅と子供とグルメの番組だった。
でも、
それはそれで、
あの空気をつなぐには役に立った。
テレビはお茶の間の神様なのだ、
かつては、
そして、いまも、たまには。

彼女の二人の妹のうち、
三番目の妹さんだけ、
いっしょにご飯を食べた。
やっぱりおっぱいが大きいな、と思った。
あまり美味しくない天ぷらを食べながら、
性欲をついもよおした。
彼女は二ヶ月ぶりに化粧をしたらしかった。
傘をさして、
手を振って歩いてきたとき、
あれ、
これが彼女だっけ、
と、よくわからないようだった。
美容院に行けないので、
髪に白髪が目立っている。

帰るタイミングがわからないので、
トイレに立つと、
彼女がタオルを持ってきてくれて、
じゃあ、帰る?
と聞くから、
うん、帰る。
と答えて、
もう一度、よろしくお願いしますと、
頭を下げた。

電車に乗ると、
どっと疲れて、早く帰って寝たかった。
もしお金があれば、
大宮あたりのソープに行きたかった。
でもお金はないので、
また有楽町線と、総武線をのりついで、
帰った。

ほんとうに、あの女と、
これから、いっしょに暮らして、
赤ちゃんを、
育ててゆくのだろうかと思うと、
まるで、実感も想像もわかなかった。
だけど、彼女の、
ピカピカのマンションに住みたいというきもちは、
しみじみとわかったような気がした。
するめをかじって、
音楽を聴く。
ドアーズに夢中になったのは、
十五、六歳のころだから、
もう二十六、七年、聴き続けていることになる。
それなのに、
いまだに、新鮮で、驚いてしまう。

今かじっているイカも、
きっと、
海で泳いでいるときには、
まさかするめになるなんて、
思わなかったことだろう。







自由詩 ごあいさつ Copyright はだいろ 2011-11-19 19:50:15
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