夜の斥力
伊月りさ

満潮
魚がよろこぶ
真っ青になる地球のどこか
沈んでいく

月が二つあります、
社会のように
わたしをとりまいて引きちぎる
右に 左に
西に 東に
分裂しなさい、と
輝く
無性生殖
父と母が結ばれなければ
あなたは無性生殖なのだから
満ちながら干からびよ、
干からびながら満ちよ、
あなたは無性生殖なのだから
満ちるだけでは干からびて死んでしまいます、



――おつきさまをぬるの
いろんな色で、一ばんすきなのはピンク
すきな色からへってくの
だから 十二色がほら、かいだんみたいよ
だから
上をそろえると下がそろわない、あれ、
下をそろえると上がそろわない、
どうして、
どうしてだろう、どの色もすき、一ばんじゃなくても
きれいにしたい、
きれいにしないとかたづけられないから
ながいのは、おったらいいの、そしてけずったらいいの、
そうやって社会はまわっているの、えんぴつけずりみたいに
満たされたらきちんと空っぽにしないといけないのです
満ちるだけでは死んでしまいます、
渇くだけでは死んでしまいます、
ここには月が二つあるので
明るくて眠れない 真夜中
見あげても
わたしたちは ひとつにはなれない、
遠く引き離されたら終わる
というきまりを
今夜も墨守するのです



ねむっている
まぶたの奥が満ち
くちびるの奥が渇くように
分裂して
分裂せずに
生きなければなりません
かれの前では満ち
かれの前では
からからと音をたてる真っ青な地球のどこにも等しく
沈んでいくわたし

それは
擬態
目をひらいたままねむる
いつでも
わたしはひとりしかいないということが
いやらしいもののように
封じ込められる


自由詩 夜の斥力 Copyright 伊月りさ 2011-11-16 17:45:46
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