白い狂気
faik
今宵、狂気はにべもなく
ひどく静かにやってきて
藍の窓辺に、頬杖をつき
淡く虚ろに、佇むばかり
声を荒げることもなく
涙を湛えることもなく
笑み拵えることもなく
白い孤影をひたすらに
白い狂気よ、何故に
そんな無情な真似をする
いっそ私をはり倒し
汚い罵声をぶちまけて
節くれ立ったその指で
憂鬱な心を煽ればいい
それを私は糧にして
ウタを一篇、書いてやる
お前がそれで満たされぬなら
何篇だって書いてやる
そうすりゃ私も枕を高く
おまえの骸、腕に抱き
悔いることも飽くこともなく
豊かな惰眠を貪れる
白い狂気よ、何故に
今日の私を、突き放す
楽になれない苦しみは
お前も同じなはずだろう
嗚呼、白い狂気よ。
お前によって束ねられ
何篇かのウタとして巣立つ筈だった
今宵の悩める言葉たちが、私の心で泣いている……
行き場を失い
家路を失い
その存在さえ認識されず
傍観されることも
共感されることも
批評されることさえも叶わず
亡者となってなお、連なろうともがく言の葉たちが
願いの、ほとりで、泣いている!
白い狂気よ、私の声は
もう、お前には届かぬか。
既に見切ったつもりでいるなら、
どういう所存でここに来た。
楽になれない苦しみを
知っているなら最初から
私のことなど気に留めず
顔も見せずに去ってくれ。
いよいよ、狂気はにべもなく
藍の窓辺に、頬杖をつき
ついに、なんの、事も起こさず
朝という名の失望の、果てへ
勝手気ままに、一晩中
悩み悶えた、私のことなど
誰がどうして知るものか
どうして伝えられるものか
東から来る太陽は
今日も清かに平和を謳い
散らかり続ける願いのほとりを
まばら、まばらに照りつける
白い狂気に似た、顔で