世界へ
シホ.N
母さんが力強く呻いた
父さんは喜びともつかぬ
情けない声をあげた
そしてぼくは出てきたのだ
危険な
しかもおそろしく不条理な世界へ
ぼくははげしく泣いた
丸裸のまま
もはや
羊水に漂うことはできない
雲間に隠れる小悪魔のような
微笑を覚えなければならない
父さんの腕が差しのべられると
ぼくはもがいた
やさしく真っ白なシーツに包まれる時にも
ぼくは抵抗した
あらゆることの意味がぼくにはわからず
自分が抵抗する意味さえわからなかった
でも抵抗し泣き疲れたとき
ぼくは気づいた
こうして母さんの腕に抱かれ
ひくひくむずかっているのが一番よいのだ
抱かれてすねているのが無意味なら
抵抗するということも無意味のようだ
それにしてもこうしてぼくは
無意味な海へ
無意味な抵抗の帆を張って漕ぎ出したのだ