世界へ
シホ.N


母さんが力強く呻いた
父さんは喜びともつかぬ
情けない声をあげた
そしてぼくは出てきたのだ
危険な
しかもおそろしく不条理な世界へ

ぼくははげしく泣いた
丸裸のまま
もはや
羊水に漂うことはできない
雲間に隠れる小悪魔のような
微笑を覚えなければならない

父さんの腕が差しのべられると
ぼくはもがいた
やさしく真っ白なシーツに包まれる時にも
ぼくは抵抗した
あらゆることの意味がぼくにはわからず
自分が抵抗する意味さえわからなかった

でも抵抗し泣き疲れたとき
ぼくは気づいた
こうして母さんの腕に抱かれ
ひくひくむずかっているのが一番よいのだ
抱かれてすねているのが無意味なら
抵抗するということも無意味のようだ

それにしてもこうしてぼくは
無意味な海へ
無意味な抵抗の帆を張って漕ぎ出したのだ


自由詩 世界へ Copyright シホ.N 2011-11-08 00:41:43
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