夜とけだもの
木立 悟





流れる弦は海に着かず
草を結び 澱みを巡る
去勢された犬は人家へ帰り
牙を抜かれた犬は土に還る


見えない凧を追い
海辺を馳せる
見えないものは 光り光らず
浪と岩をつないだ線をゆく


原の縫い跡
渇いた喉
緑のなかで
夜ふりかえる夜


泣いていたものが泣くのをやめ
泣きつづけるものを見つめている
傷は色と光に残り
てのひらから曇へ落ちてゆく


蒼の履歴
冬に刺し
負にひらく街
縦に長く


鉄と硝子
内に外に人は落ち
青の手は拙く
水をすくい


午後の終わりを巡る雨
接ぎめ無く重なり 消える文字
言葉はいつも ほんとうを言う
言葉以外の ほんとうを言う


見えだした
畏れのほころびから見えだした
紙の屋根 紙の橋
紙の海へなびく 紙の原


言葉の標の渦に立ち
そこからどこへも動けずにいる
ひとりの幼い夜に向けて
けだものは草をつまびいている

























自由詩 夜とけだもの Copyright 木立 悟 2011-11-07 09:34:31
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