独白
……とある蛙

 単純な方法に慣れて親しんでいたおれには、この街の未来がありありと見えていた。ありとあらゆる工場は廃墟と化す前に打ち壊されて、その代わりに実体のない紙幣に踊らされたモラリストたちが残飯を食ったりするレストランや、たるんだ腹を伸ばすための瀟洒なサロンが入った人工のビル街に変わるのを。この街に天使などいやしない。あるのは人の懐を狙ったペテン師が操る化け物たちだけだ。おれはろくすっぽ金も持たないのに恐怖した。それから、おれは一生懸命弁明したのだ! おれの精神は無秩序のため混乱を来していて、今、窓からのぞかれるスカイツリーすらまともに見ることが出来ない。重い病になったこともないが、俺は働きもせず無為に過ごしていた。
 結局おれは図体のでかい小動物でしか無く、常に何かに怯えてビクビク生きてきた。おれは、この世に別れを告げることもできず、毎日毎晩別れの詩を書いているのだ。

 別れの歌
            見つめる眼が暗くなり
          投げかける言葉が辛辣となり、 
        愛を語るにはあまりにも長く暮らしすぎた。

       おれは常に我慢してきたと思っていたが
         別れることへの恐れと苦しみが
          それら我慢をどこかへ霧散させた。
            そして病的な思考が
            おれの渇きを増進させた。

             もう一度でよい
             もう一度やって来い、
             愛を語らう日々よ。

            なんて世迷い言を繰り返す老人になって
             思考停止の残尿感を抱えている。


 おれは田舎に行こうと思う。そこには耕作を禁止された休耕地や荒れ野原、花も咲かずに実も成らない果樹園、寂れた商店街のシャッターを閉めた店、さえない居酒屋でぬるくなったボールをノミながら町の将来の夢物語を語るのだ。おれは金も無く泊まるところも無い状態でも田舎町まで行かねば成らない。都会にいては道端で残飯を漁る独りの浮浪者になるしかないのだから。

 「ペテン師たち、ヨーク聞け。お前らの破壊した人に対する信頼もいくばくかの友情によってつなぎ止められた。涙はもう乾いたよ。これ以上壊せるものなら壊して見ろ。もう壊れるようなやわいものは無い。」

 ゴキブリの嫌いな飼い猫は、相変わらず外と内の合間にあるベランダで安全な午睡をしている。腹が減ったらカリカリ与えられたものを食べれば生きて行ける。

 空腹

           おれはグルメだと気取ってみても、それは
           マスメディアの好みでしかない。
           どんなに鮨が旨いの不味いの言ったところで
           砂糖と塩ほどもその味に差はなく
           食感と言ったところで石と布団ほどの差はない、
           主食が飯であることも変わらない。

    だったら生きて行けるだけでも有り難いと思って
    嫌なものを食べるときは酒をたらふく飲んでしまえば何とかなる
    嫌な人間に出会ったときも一人で酒をたらふく飲めば何とかなる。
    嫌な出来事に出会ったときは酒をたらふく飲めば何とかなる。
          
          結局解決にはならないのだが。



自由詩 独白 Copyright ……とある蛙 2011-11-03 17:30:09
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