アダージョ
Lily Philia




春、一斉に花びらひらいて
みんな
死んだ冬のこと
忘れてた

あたしを殊更に
どうかさびしく
絶えずその
可愛いつむじの辺りを
くるくると廻っている
おもかげのような
ひとひらを

あなたは
降る木漏れ陽の
慈しみ
ほんとうに
あおくあおく睡り続け
その腕に死ぬのなら
貝殻のような手足を持ち


 なお、いっそうに
 みえてしまう
 幽霊のような光が
 束になって押し寄せる


 「おじょうさん、
 肩に花びら乗せて
 どこどこゆくの?」
 
 「あたしは
 浄土へゆくんです
 ほら、花が
 たくさんにたくさんに
 けぶっている
 ときいろのあすこです」


(例えば人間とゆう方角でしょうか

(まさか、ただの言葉でしょう

(未来とゆうのが方角でしょうか

(そのゆくえはいつまで過去ですか

(いつまでだって過去なんです

(そして未来です

(北を目指し一列にかけぬける影

(あれは何ですか

(あれは白鳥です

(さあ、おやすみの時間ですよ

(テレビは消して、電気を消して、同じ名前を持つこと

(ドアをしめたら響く、ばたん


あなたをしづかによせる
だきよせる
どこまでもつづいてゆく
しんくうのなみ
そしてまた
しづかにかえす
なまえをかえします
こうやって
星空は今年も
一度も間違うことなく
季節をなぞり
いちめん
せいいっぱいに
はるになりました


「南十字星の
 すぐ南東に
 コールサックと
 喚ばれる
 暗黒星雲が
 あります

 知っていますか
 あれ
 実は白鳥座にも
 あるんです」


それは
ずっとずっと
昔の出来事
今、ここにある
いつかのおはなし


 あたしは
 お母さんのてのひら
 そして
 星座のワンピース
 泣きつかれて睡る
 お父さんは
 ひとつだけ咳をして


あらかじめ
結ばれることを許されていた
名前と名前

めくられてゆく
頁のひとつひとつに
時間がとまっていて
とまった侭の
かたちでいて
そのしじまに
あなた
燐光している


 あまのがわ
 あすこに
 はくちょうが
 きたのじゅうじを
 えがきます


そうして
みんな
等しく
泣いてもいい








自由詩 アダージョ Copyright Lily Philia 2011-11-03 16:50:02
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