鉢植えのフロンティア
小池房枝

昔、花屋にマツムシソウがあって驚いた
街で会うとは思っていなかったから
タカネマツムシソウそのものではなく
スカビオサか何か園芸品種ではあったのだろうが
風に揺れながら山に咲いているはずの花だった

それから
ワレモコウなどまであちこちで見かけるようになって
吾亦紅、我も恋う、我も乞う
人界へ連れてこられ
山へ帰りたくはないか
サンキライも並んでいたか

そしてとうとう昨日見たものは
ススキの鉢植え
年ごとにお月見セット切り花が売られてはいたが
さやさやと今
この駅前の花屋の駅のホームの法面一面に揺れているものは
秋風にくすくすと
夕方のうろこ雲をくすぐっている白銀の沢山の
ありふれていながら日を追うごとに美しいこの巨大な雑草は
フロンティアにしてクライマックスなのだと
売買にかかわって来たものたちはわかっているのか
月つながりでウサギ同様大きくならないススキなのか
誰が買うのだ

売られている/買われていくススキの足元も
いつか密かにオモイグサが宿ることになるのか


自由詩 鉢植えのフロンティア Copyright 小池房枝 2011-10-26 13:08:15
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