深水遊脚

最初からそこに確かにあった

遠くから見上げる立ち姿は
あまりに機能的で無駄がなく
目に映るほかの風景を邪魔しなかったから
ほかのものばかりに目が奪われ
それを意識することがなかった

ふもとには金網があり
ありふれた立入禁止の注意書きなんかがあった
ごみ収集所になっているものもあった
そこから塔を見上げたことは何度かあったかもしれない
かなり多い回数見上げているかもしれない
でもいつ最初にそれを見上げたかが思い出せない

夜に何やら赤い灯りが点いている塔もあった
点滅しているものもあった
その灯りも最初からそこに確かにあったけれども
灯りと塔とは私の頭のなかで
それぞれが別々にぼんやりと存在していた

塔は送電線を繋ぐ
繋がるものには始まりと終わりがある
ひとつだけ送電線の終わりを偶然発見した
そのことで目に映る風景が変わった
塔が少しだけ主張するようになった

始まりと終わりを含めたすべてを知ることは
わりと簡単に出来そうだ
たいていのことは好奇心と根気と時間があれば
ちゃんと理解できるようになっている
でも今以上に塔に主張してもらっては困る気がする

始まりでも終わりでもない
どうやら私の住む場所ともあまり関係がなさそうだ
そのことでかえってちょうど良い距離を感じている
知りすぎれば醒めてしまう
踏み込みすぎれば壊れてしまう
ただそこに在って欲しい
今はそのように感じている


自由詩Copyright 深水遊脚 2011-10-20 12:44:58
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