斜陽
イシダユーリ

腰から
あなたの右足が
つきだしているから
歩くときには
きまってふらふらとする
電車では
みなが嫌な顔をする
あなたの右足以外の部分は
どこにいってしまったか
知らない
キスをするのだ
と言っていたから
建物の土台や
鉄骨の錆に
キスをしているのだろう
セックスをするのだ
と言っていたから
雲の切れはしや
送電線と
セックスをしているのだろう

わたしの街は
いつも酔っている
サリーを着た女の人が
高架下を歩いている
ベビーカーを
押している
赤ん坊の顔を
のぞきこむと
あなたの足が
いつもより
わたしに
埋まって
地面がゆれた
電車が顔をかすめたのだ
アリガトウゴザイマス
ワタシタチハ
ニホンガスキデス

あなたは
両手を
あげて
砂浜を走っていたが
いまは
もう走れないだろう
ただ
波のような背中が
つきささる
小魚に
食いあらされる
かがやかしいたそがれ
いまは
もう走れないだろう
けれど
わきの下に
両腕を
いれられて
ベッドまで
運ばれている
アリガトウゴザイマス
アナタタチハ
イツモスバラシイ
レイギタダシイ
ヤサシイ
けれど
わたしたちは
あなたたちを
軽蔑しています
アリガトウゴザイマス
オカネハ
トドマリハシマセン

あなたの
右足が
わたしに
仕事をくれます
ふらふらと
歩くこと
電車に乗って
嫌な顔をされること
小銭を
投げつけられること
そして
子どもに
くすぐられること
いつも
酔っている
街で
電車が
たくさんの人を
轢いていきます
ばらばらになる人は
ばらばらに接続されます
わたしは
あなたが
もぞもぞと
砂浜に
埋もれようとしているところを
想像します
月明かりが
あることもあるだろう
と考えます
あなたのよだれのような
豊潤さで
コトバガ
カラダデ
ナイコトハ
スバラシイデス
サリー
あなたのあばら骨が
もちあがって
目がつむられる


自由詩 斜陽 Copyright イシダユーリ 2011-10-19 20:25:30
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