すべからずの谷
灰泥軽茶

歩道と車道の間にある細長い縁石を

すべからずの谷と呼ぶ男がいる。

「周りに高い建物があればある程、俺は燃えるんだ。」

「この高揚感をあなたにも感じさせてあげたい。」

と道行く人に手を差し伸べている。

ある日、その男はすべからずの谷を自転車に乗って漕いでおり

ふわふわ浮いているようだった。

信号機が青になって皆が歩き始めた後ろから

その男はふわふわ浮いたまま

舟渡しのようにゆっくり漕いで渡り

またすべからずの谷に着地し遠くへ消えていった。


自由詩 すべからずの谷 Copyright 灰泥軽茶 2011-10-17 23:29:45
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