探索
葉leaf



静かな糸で縛られたふたつの命。命が影のように伸びていくといつか人間にぶつかる。初めまして、僕らこんなに遠かったんだね。お互い嫌いなほうの手で握手しよう。服さえあれば知らない街でもさかのぼってゆける。ひとつの命を口の中に残したまま、晴れきった宇宙の衰亡をたしかめよう。何時に死んだらよいのか分からないので、いまだに死ねずにいる。命を減らすために日光をつぶし続ける。



うすら寒い原野にいくつものシーンが棄てられてある。いくつかのシーンが偶然重なって融合を始めている。融合に巻き込まれた土、草、空気、そして私の右足。ひとつのシーンが起ち上がり、胞子をばら撒く、シーンの中では快楽にふける馬が血管を伸ばしている。ひときわ厚いシーンが町並みを対流させている、底面にはうっすらと恒星が生え出している。



うららかな午後、探偵は壁の中に埋まっていて、犯人は探偵を掘り出している。机の抽斗の中から誰かが呼んでいる、声の角度を気にかけている。机の上は水でいっぱいで、水の表面はしわだらけだ。掘り出された探偵は早口に自分の推理をまくし立てるが、どんどん床に埋まっていく。犯人は天井から降ってきた文字に覆われる。抽斗の中から誰かが犯人を朗読している。



光にまみれた昼の形体はタオルで光を拭き取り、一瞬だけ闇が発芽するのを苦しむ。昼の形体は太陽との距離を細かくちぎって図書館に収蔵する。湿っていく宇宙の骨格を光に翻訳しきれなくて、昼の形体は視野の満ち引きに紛れ込む。朽ちた光の血、病んだ空間の名前。昼の形体の呼吸をたどって酸素が進化する。春の草花は声の中に沈み、小さな風景を巻き上げている。



淫らな道路たち。快楽のように薄く長く、倦怠のように硬くざらついている。淫らな道路を愛撫する清冽なタイヤたち。聞こえた流体の分だけ密になればいい。タンポポがむかれている、四角く固められた腕が燃やされている。淫らな道路たちで編んだかごを腕に提げて、少女は星を買いにいく。雨が上昇する春の昼下がり、雨粒の帝王切開で地球が産まれた。


自由詩 探索 Copyright 葉leaf 2011-10-16 05:30:03
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