埋める
草野春心


  あなたを
  埋めてしまわなくては
  なりません、突然の雨に
  暴風に、雷に
  あなたが苛まれないために
  土深く埋めてしまわなくてはなりません
  スコップに土をすくい、
  スコップを振り上げて、
  振り下ろさなくてはなりません、
  何度も
  何度も、馬鹿みたいに
  繰り返さなくてはなりません、台風に
  濁流に、気温の
  急激な変化から、わたしの
  大切なものを
  護ってやらなくてはなりません
  わたしが、もし
  そのことに全力を注ぎたいのなら
  それを、なるべく分割して
  なるべく小さく分割して
  別々の場所に埋めてやらなくてはなりません
  わたしは沢山の場所に行かなくてはなりません
  あなたの耳を、木陰に、
  ニコチンで汚れたあなたの歯を
  あなたとよくふざけた、
  あの海辺に、
  あなたの骨ばった手と
  あなたの手首は、うすぐらい洞窟に、
  ひっそりと隠してやらなくてはなりません、
  見つかってはいけないのですから
  わたしは
  スコップに土をすくい、振り上げて、
  振り下ろさなくてはなりません、何度も何度も馬鹿みたいに
  きっとやり遂げなくてはなりません
  そして、
  わたしが、もし
  あなたのことを
  本気で愛していたのならば
  声をあげて泣きながら
  あなたを埋めてやらなくてはなりません
  もちろん雨はきます
  理不尽な暴風と、
  眩しい閃光はあなたのことを
  苛もうとします、かれらだって、
  本気なのです、
  わたしは、涙を流しながら、
  やり遂げなくてはなりません、
  あなたを
  穴に突っ込み
  土をかぶせ
  たくさんの草をかぶせ
  馬鹿みたいに
  涙を流しながら





自由詩 埋める Copyright 草野春心 2011-10-15 18:36:42
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