we're drunk 'til the morning
ehanov

我々は朝まで押し黙る。壁の朽ちた食品工場に蔓延る黴の群れとして。投げ込まれた石が薄暗く音を立てる霧の湖として。黒ずくめの(発光して燃えているようなもの)に、孤児のずぶ濡れた(双眼鏡)に、深く沈んだ調子の浅いため息を被せながら、溶け出した水晶を雨の降らない湿地帯のぬかるみへ埋葬し、我々は朝まで押し黙る。


アスファルトが軋みだす太陽の隠れた夕暮れに、煤けた竹に跨る(未然)は水たまりを捕食する。欠けることを欠いてある水たまりは食らいつかれたのち地面に生息し、(未然)は地面を離れた。空気が砂混じりに濁って淀みだすとき、秋刀魚は焦げる。石塀に潰れた(未然)の頭から、かさぶたのような(赤黒く固まっている)がうずくまり、民家の軒下で、ゆるやかに古く歪んだ童謡が流れだす。トランジスタ、針、春はいまだ遠い。次第に空は、青いカーディガンの裾を撫ぜながら、年増の妹の嘔吐する口を塞ぎこむ。


誰か笛を吹かなかったか。蛇口を捻ると水が鉄とともに窓に三日月を描き出した。硝子が鈍く震えているのは庭の欅が自らの葉を揺らすからだと、語った娼婦は道を這いながら呟く。住宅街の路地裏の(産業廃棄物)。浮ついた声が入り込む泥と血と(枯れているがまだ息はある)の道。言葉が留まらない娼婦に、(聞き取られる前に足元に落ちる言葉)を浴びせるまだ(未然)の少年の背中越しに、視線を被せる落ち葉をまとった(ドリフターあるいは影の歪んだ存在者)に、隙間の無い終電は到着し、青銅はふと、光らない先端を振り乱し、月が笑うとき電柱に散らばりだした学童のカンテラに罅をつける。


我々は外のことは何もしらない。ウォータークーラーの水が三秒だけ湧き出る。もうすでに死んだ病院の診察台へ駆け上がるための手続きを終えた後に、椅子を取り外された待合室に我々は静かに佇んでいる。枯れた土の地下深くからいつともしれず訪れる、変容する凍結した地軸としての、聞き逃させるための微小な呼び声に耳をそばだてながら、歓待する、消えかかった煙草に再び火を灯し、訪れない終息を、うごめかす気配でもてあそびながら、我々は朝まで押し黙る。


自由詩 we're drunk 'til the morning Copyright ehanov 2011-09-29 20:40:02
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