老いの一歩
花キリン

前に出る
その一歩に躊躇している
エスカレータは音もなく上ってくる
そして何事もなかったように
音もなく下りていく
その一瞬だけ誰にも気づかれず
時間の中に取り残されていく
どんと老いの定義を
その一歩にぶつけることが出来るなら
デパートの売り場は
最高のパフォーマンスの場所になれるのだが

デパートの商品に値札が付いているように
私にも値札は付いているのだろうが
何度も付け直されて
見向きもされない古びた栞のように
形だけの値札になっているのかも知れない
交通事故を心配する必要もなく
よろけて転ぶ心配も無いから
熱く循環するものがあるとすれば
もうここにしかない

そんなことを何度も聴かされて
思いの難しさを先送りしてきたが
エスカレータの前で
その一歩に躊躇している自分がいる
エスカレータが音もなく上ってきて
誘うように足もとでその姿を消していく
そして何事もなかったように現れては下りていく
そこだけが現実と少し離れていて
考える時間は長くなるだけだ





自由詩 老いの一歩 Copyright 花キリン 2011-09-17 15:25:12
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