中秋の月
吉岡ペペロ



画廊でブラマンクやユトリロやルオーを眺めた

地下鉄と環状線を乗り継いでやってくる女を待っていた

待ち合わせ時間が迫っていた

しかし慌てて地下駐車場に向かった

ダッシュボードからコンドームを四つ取り出した

すぐそばで白いプリウスが駐車しようとしていた

なんだか進化したゴキブリのように見えた


暑かったわね、

でも、もう残暑じゃないよ、

え?

光が当たっているところ以外、もう暑くないじゃないか、

女の何気ないひとことを否定するような言い方をしてしまった

これは劣等感の裏返しだろう

この恋愛もいずれ失うことになるのだろう

なのにおんなじようなことを繰り返していた

永遠なんて言葉をまた使っているじぶんに嫌気がさしていた


セックスのあと地下一階の鉄板焼屋で食事をした

シェフが焼いてくれるのを楽しそうに見つめながら

楽しい、楽しい?

女がなんども微笑みながらしがみついてきた

きょうは中秋の名月だから、デザートはおだんごでもいかがですか、

女は部屋に持って帰りたいと言った


大阪の町がしっとりと輝いている

その中空に鏡のようなきらめきが静止している

ソファの横のスタンドを消すとふたりでひとつに座った

宇宙船みたい、ハロー、ハロー、あなたも言って、

ハロー、ハロー、

あなたの目みたい、

あんなに光ってる?

あたしを見つめてくれている、

ガーリックライスのほのかな匂いがした

コンドームはあと三つしかない

外灯に照らされているみたいだ、

そう言って女の髪の毛にあごをのせた

外灯に照らされたベンチが浮かんだ

月光に照らされたちいさな運動場が浮かんだ

それからあいつの部屋の明かりの色が浮かんだ

それ以上は淋しくなるから考えるのをやめた


携帯写真+詩 中秋の月 Copyright 吉岡ペペロ 2011-09-12 22:59:01
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