壺中の天
マチムラ

君の眼はいつも遠くをさまよっている
夢の中を旋回するように生きる君の日常
その頃僕は断頭台の上で道化を演じるんだ
そんなの誰も見ていなくてね
すると君に手をひかれていくみたいに
遠く 遠くなって
隣に座る友人の名前すら思い出せなくなる
青と灰の満たす白い陶器のような午後を
僕の指をとってなぞらせる君の手
僕がひどくたわんでしまうたびに
君はこうやって古い井戸から汲んだ冷たい水を
僕のたわんだ部分にそそぎ入れる
そうして僕は君のリフレインばかりを聴く
使い古したなぐさめの子守唄ばかり
そうして僕は眠る



君の隣で僕は鯨になり、鳥になり、貝になる

僕は唄う、僕は囁く、僕は沈黙する

全ては解き明かせないと泣きながら

君にもっと見せてほしいと言う

壺中の天を



僕はどうやら眠りながら泣いていたみたいだ
まるでぬるい湯に浸かって迎えた朝のように
やるべきことばかりの正しい日常が
逆に僕を確かめている





自由詩 壺中の天 Copyright マチムラ 2011-09-11 17:06:07
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