ホイミ
村上 和
私は無力です。
私は無意味です。
私は透明で空っぽです。
まるで生きていないみたいに。
― みんな、似たようなもんさ。
『ホイミ』
・
休日の昼下がり
知らない人たちが行き交い
暮らし営む
ささやかな街を歩く
私は風に
小さな呪文を唱えてみる
吹き抜けるその風は
きっとそんなたわいない声や
花の息吹なんかをどこかに届けているのだろう
このどこにでもありそうな街角が
まだ生まれていない君の
まだ生まれていない誰かとの
出逢いの場所になればいい
・
風が
君の透明で空っぽな身体を
そっと吹き抜ける
透明な身体は
自分では色づかないから
隣の人が君に口づけて
君は隣の人に染められる
空っぽの身体は
自分では満たせないから
君は隣の人を抱きしめて
隣の人は君で満ちてゆく
・
わたしは
しをえがけていますか?
しのうたをえがけていますか?
わたしはしを
いきてもいいですか?
いきていてもいいですか?
きみはわたしのしに
いきていますか?
いきていてくれますか?
・
未来で触れた
君の手の温もりを覚えている
君の言葉や声は
君の知らないところで
私の心に触れる
私の心で泳いでいる君の
心の中で私は泳いでいる
・
誰かのささやきが風に乗り
呪文のような言葉で微かに聞こえる
ひとつでは生きられない
生命(いのち)を持って私は生まれ
ひとつでは生きていけない
死命(いのち)を持って私は生きていく
ひとりでは生きていられない
命を持って
逢ったこともない君の
君も知らない優しさで
私は今を生きている