ホイミ
村上 和

私は無力です。
私は無意味です。
私は透明で空っぽです。
まるで生きていないみたいに。

― みんな、似たようなもんさ。





『ホイミ』






休日の昼下がり
知らない人たちが行き交い
暮らし営む
ささやかな街を歩く

私は風に
小さな呪文を唱えてみる

吹き抜けるその風は
きっとそんなたわいない声や
花の息吹なんかをどこかに届けているのだろう

このどこにでもありそうな街角が
まだ生まれていない君の
まだ生まれていない誰かとの
出逢いの場所になればいい






風が
君の透明で空っぽな身体を
そっと吹き抜ける

透明な身体は
自分では色づかないから
隣の人が君に口づけて
君は隣の人に染められる

空っぽの身体は
自分では満たせないから
君は隣の人を抱きしめて
隣の人は君で満ちてゆく






わたしは
しをえがけていますか?
しのうたをえがけていますか?

わたしはしを
いきてもいいですか?
いきていてもいいですか?

きみはわたしのしに
いきていますか?
いきていてくれますか?






未来で触れた
君の手の温もりを覚えている

君の言葉や声は
君の知らないところで
私の心に触れる

私の心で泳いでいる君の
心の中で私は泳いでいる






誰かのささやきが風に乗り
呪文のような言葉で微かに聞こえる

ひとつでは生きられない
生命(いのち)を持って私は生まれ
ひとつでは生きていけない
死命(いのち)を持って私は生きていく

ひとりでは生きていられない
命を持って
逢ったこともない君の
君も知らない優しさで
私は今を生きている


自由詩 ホイミ Copyright 村上 和 2011-09-11 15:15:42
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