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salco

アー族 

1980年代に忽然と姿を消した、アマゾン奥地(ブラジル北西部)の未開部族。
1984年、接触を図って来たフランスの人類学者と現地通訳(隣接部族)の惨殺遺体
が集落跡で発見されて以来は確認されておらず、人数も所在も不明。


[社会]

1つの共同家屋に3、40人が男女別に暮らすという生活形態はヤノマミに似ていたが、
幼時に舌を切断する風習を持ち、明瞭な言語と豊富な語彙を放棄した部族と言われる。
「アー族」という呼称は、この自虐的慣習による不具の為、周辺部族が用いていた蔑称
に由来する。彼ら自身は「オ、オ、オ」(私、私達の意と推察される)と自称していた
と伝わる。


(以下、人類学者の遺したメモより;族長の言葉)

それ(精霊、神?)は遍在(動作=人差指を立てて空中に弧を描く)するが、見えない
し触れない。そうである以上は目(意思?)や喉(声)という毛髪(概念?)を遥かに
超えた木々(存在)であって、私ら(発音;オ、オ、オ)ごときに呼ばわる(発音;ク
ォ、クォ、クォ)筈もない。
上空と密林(不可知と不測?)について私らは怯える(動作=頭を抱えて委縮する)ほ
かないのであり、その声や目配せ(意向)を聞いたと口腔(標榜)し、その言葉を語ろ
う(発音=クォ、クォ)とする者は自らをその手(代理者?)、あるいはその足(従者
?)としての鼻息(特権)を放屁する(騙る)地団駄(蹂躙?悪業?)を犯すのであ
る。決してそのような睥睨(傲慢)を自らに許してはならぬ(動作=自らの頭を叩く)。

また言葉は歯垢(汚れ、嘘)を着ける。芋(真実)を尋ねる一方で、前歯(自己利益)
の為にかくも小石(安直)に連ねられ、相手を操ろう(動作=掌で瞼を撫で下ろす)と
するだけでなく、自らをも催眠する(動作=手の甲で瞼を撫で下ろす)為に随意(動作
=両手指の関節を蠢かす)に呼吸される。
胸(心?生命?)は言葉ではなく刃物(行ない)によって斬る(実証する)べきであり、
耳孔(正)肛門(邪)を判断されるべきであるから、決してそのような脱糞(欺瞞?無
礼?)を自らに許してはならぬ。
だから私らはよその連中(発音;イ、イ、イ)のような痙攣(呪術)を行なわない。そ
れは遍在する者の弓矢(仕事)である。

―― お前は何を掻いているのだ? こうして身振りを交えて伝える事が、そんなに小
さな形象の連なりになるのか? ずいぶん多いな、目が回る。私らはこの棒を使って歯
を磨くのだ。
お前は私らの短い(儚い?)思いが、猛り狂う虻の航跡のような、そのようにひどく乱
れた印で残ると言うのか? お前の服装(奇妙なこと)だ。

―― お前はここに来た時、私らを数えた。あちらへ行き、こちらへ来、覗き込んでは
その棒で手元を掻いているのを私らは見た。
私らは座っていながら全員を知る。それが誰の子で、誰の孫で、誰の同胞で、誰の親か
も知っている。顔を見れば、元気なのか具合が悪いのか、楽しんでいるか悲しいのか、
好意を持つのか敵意が潜むのか、じき死ぬのも判る。私らは眠っている間も全員と共に
ある。私らの世界(動作=両手で掬い上げる)はこのようにある。

―― お前はよく喋る。何の為にそれほど舌を動かすのか。お前が声を発しても雨は降
る、地は濡れる、川は膨れる。お前は声でそれらに抗い(動作=拳で殴るふり)得る
か? では何を願うというのだ。

―― お前はよく掻く。芋や獣を探す代りに動作を止めてばかりだ。その棒だけが忙し
い。言って置くが、言葉で家は建たない。言葉で狩りは出来ない。言葉で子は生まれな
い。そこに私らを移す事は出来まいよ。


                       コキぺディア 「先住民族」 より引用


散文(批評随筆小説等) [a:] Copyright salco 2011-08-30 21:29:24
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