野良猫その4
……とある蛙

(猫)
  おれが歩き始めた港町
 鴎が去って、鴉だけがうようよいる
 古臭い歌しか唄わない詩人たちが
 古臭いことこそ正しいことだと
 言わんばかりにおれたちの居場所で寛いでいやがる。
 横柄な態度や失語症患者のような言葉には慣れたが、
 どうにもこうにもあの薄汚い形(なり)には何とかならないものかと
 
漁師たちは活発に水揚げ作業をこなし、
おれたちに数匹の鰯の分け前を与え
そして、
しょぼくれた奴らには目もくれず
快活に笑いながら、
十分肥えた愛する女房たちの待つ丘の上の家に帰る。
奴らの詭弁など彼らの耳には聞こえないばかりでなく
奴らの風体など目もくれな

何の!おれにはありありと見えていた、
服従する相手がいなくても、
守ってくれる者がいなくても
いつもビクビクしていたことを
本当は食い扶持が欲しいのだ
本当は肩書きが欲しいのだ
だれそれの下っ端という
くつろげる家庭が欲しいのだ


教会の代わりに工場を、
水産加工場のまわりに巣くう鴉を
それを撃滅するための太鼓を
魚を運ぶネコ車
港のまわりには魚を飯の種にしている
人、犬 猫 鴉
化け物どもがわんさかだ

 ただ食えれば良いだけではない。
 アップダウンの少しある散歩道
 思索するための日溜まり
 少し高さのある昼寝の場所
 顎を少しだけ撫でるあっさりとした猫好き

 さすがにここから東京スカイツリーは見えない。
 ありとあらゆる詭弁を使うのだが、
 詭弁に魔法はついて回らず、
 鴉どもとはそろそろおさらばしたい




(人)
俺はよそ者であって、厄介者であって
街の者からは
眼の中には存在していても
意識の中では存在しない幽霊だ。
野良猫はじっと俺を見ている。
大きな黒目で瞬膜は見えない。
その大きな黒目の中に
俺が襤褸を着て所在なく佇んでいる。


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自由詩 野良猫その4 Copyright ……とある蛙 2011-08-30 14:47:22
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