無題
遠藤杏

焼かれていく存在しなかったいくつもの文字と文字の間に幼い泣き声がきこえる
遠くから迫ってくる争いの騒音と
でたらめな正義と、ぬかりない計画と、冷めた目線と、緩んだ声と、
手放さなければならなかった多くのものたちと絡まり合った塊の臭い
足音がこわい 天才なんかいない 生命が危うい 混沌
濁った水のなかで見えない目をこらしていると鮮明に見えてくるものがあって、
それは次第にどんどん増殖して
目の真ん中に点となって現れ
やがて真実を見抜くことさえも難しくなってしまってからは、
もうすべてがどうでもよいと思えるくらいに
なぜだか一番正しい方向にむかえるような気がしてきた
知らなかったことは誰も知らない
わたしが知らないということを誰も知らない
脳裏に焼き付けてしまった布きれの一枚一枚を剥がして
またうまい具合に貼り付ければ
すべてはなんとなく正しい方向にむかうんじゃないかって
みんな本気で思っている
脳も気づいていない事実に
人が気づくはずもない
いがみ合うのとは違うただ方向が違ってるだけ


瓦礫が積み上がったその上にまた埃が積もって、
いずれそれがなんなのかもわからなくなってしまう
形は形ではなくなって
心は心ではなくなって
物質は触れることのできない空気になって
肉体はちぎられて花を咲かす
魂は
間違いを教えてくれはしない
問いただしてくれはしない
だからもう一度口を開いて叫ぶしかない


今から叫ぶ言葉だけが、
わたしにとって唯一の真実になりえるから




自由詩 無題 Copyright 遠藤杏 2011-08-30 02:23:10
notebook Home 戻る