モード オフ
salco

金曜の午後4時15分
学校帰り
アメ横手前のマックでコークのラージを買い
UJは
向かいのMODE OFFに入る
『 いらない服お売り下さい 』
コーラほどの肌色が目を引く
全面ガラスの店内を
166センチの黒人少年が上って行く

欲しくもない古着をゆっくり見て回る
腹が減って来た
保育園の時からお母さんは働いている
いつやら男ができた
運送会社に勤めているとかで大体
金曜の昼過ぎに来る
それで去年の10月から塾に通う
4時半から7時まで
新しいお父さんなんか欲しくないけど
お母さんが楽になるだろうとも思う
暗くなれば、上野公園でやり過ごす

おやつ代は貯めている
9月1日まで炭酸はLも100円
お釣りが400円になる
アメリカ資金にするか、DSに使ってしまうか
まだ決めていない
ターンテーブルを買いたい気もする
「お前さぁ、ヒップホップやれば? 
チョーかっこよくね?」
親友の宏斗が前に言った
高校生ぐらいになったらやりたくなるかな
勉強が好きじゃないだけだ

学校で自分だけ黒い
街でも自分だけ黒い
ここの客もみな日本人だが
古着の中を巡っていると目立たない気がする
誰も気に留めない気がする
選んでいるふりをしていると
大人っぽく見えるんじゃないか
目的を持っている風だと目を付けられないのか
4階は300円均一
ここはいつも閑散としている
1着300円なのに
300円だからいいのが無いせいだ
だから4階なのだろう、誰も
階段を上ってまで見に来ない

生暖かい古着臭の中
Tシャツの肩口を掌で掠めて行く
汚れても盗られても誰も損しない
TシャツTシャツT・T・T・T …
ワイヤーハンガーがいい感じで指を弾く
ベルトコーナーで
モスグリーンの合革を手に取ってみる
楕円のダサいバックルがウケるかなと思う
毒ヘビごっことか?
誰も見ていない

誰も見ていない
本当は雄大という
UJなんかじゃない
てきとーに付けた自分用の名前
「速水君って、英語しゃべらないの?」
「お母さんが日本人?」
「中学行ったらさー、バスケやれば?」
「お前そしたらNBA行けんじゃん!」
「1億円プレーヤーかよ、スゲー」
「1億どころじゃねえよ、バーカ」
「オレにちょうだい? 500万円」
監視カメラが見ている


自由詩 モード オフ Copyright salco 2011-08-27 22:38:20
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