音のない洞窟( 落日編)
吉岡ペペロ



マッサージから帰る道すがら南国の落日の光景にお客さんは皆さん感激してくれた

今夜は今回のマレーシア企業視察団の第ニ陣との交流夕食会だった

第ニ陣にはイガタアヤコがついていた

職場のように挨拶をする

シンゴはこの仕事をしていてそんな瞬間が好きだった

しかし今夜は違ったようだ

カワバタくん、なんか疲れてない?

それにも返答しないシンゴにアヤコは不審な顔をした

さっき足裏マッサージをしてさ、自分の毒がまわったのかな、

軽口のつもりが本当にそうであるような気がした

シンゴは部屋に戻ると手帳を取り出しベッドに身を投げた

そして白紙のページを繰ると詩を書きはじめた

詩を書くなんていったい全体どうしたというのだろう

学生時代、旅日記が詩のようになることがあった

言葉のスナップ写真

情景や匂い、風や音やひかり、湿度、こころがそこには切り取られていた

しかし今書きなぐっている詩はそういうものではないような気がした

それは詩というよりは中学生の卒業文集のようだった

それは中学生の卒業文集というよりは遺書のようだった

落日はだれかにとって
の朝日である

今オレはどこにいるの


異国の落日にオレは自
分を確かめた

だれも教えてくれなか
った

大切なひとはただオレ
に無償の愛でやさしか
っただけなのだ


今オレはどこにいるの


今ここにいる、そう思
えることが生きている
ということだった

そう思えないのであれ
ば落日となるしかない
のではないか

きみとの思いを壊して
しまわぬうちに

落日となってきみの朝
日となれるうちに


落日はだれかにとって
の朝日である

今オレはどこにいるの


異国の落日にオレは自
分を確かめた

だれも教えてくれなか
った

大切なひとはただオレ
に無償の愛でやさしか
っただけなのだ

シンゴは文字と格闘しながらタバコを吸ったりヨシミに電話をしそうになったりした

手帳の空白のページはこの詩の習作で埋めつくされていった

完成したとき手帳にはもう予定など書く場所すらなくなっていた


携帯写真+詩 音のない洞窟( 落日編) Copyright 吉岡ペペロ 2011-08-19 07:02:01
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