企業視察を終えて一度ホテルに戻り2時間ほど休憩してから有志でフットマッサージに出かけた
お客さんたちを座らせシンゴもマッサージを受けた
幅広の籐椅子に半分寝転がって愛想のよい男に足を触らせた
マッサージを受けながら前をすぎてゆく現地のひとを見つめていた
散歩でもしているのだろう
皆ひとりで歩いていた
散歩はひとりでするものだよな、
そうひとりごちてシンゴはまた深呼吸のようなため息をついた
おおきな雲に隠れていたのだろう
気づかなかったのだが空が西日に染まりはじめていた
隣で受けているお客さんが
ガイドさん、なかなかいい眺めのマッサージですなあ、
そう話しかけてきたのはさっき彼女に布を買ったサエキさんだった
ここに来るまえ地元のショッピングセンターに立ち寄った
イスラム教徒の女たちが身につける布がたくさん売られていた
彼女に買っていこうかな、
お客さんのひとりが軽口をたたいてハッとした
シンゴもいろいろな色をヨシミを思い浮かべて見ていたのだった
ガイドさんは、なんでこの仕事を選んだの?
シンゴは最初サエキさんの質問の意味が分からなくて黙ってしまった
黙ってから
この仕事ですか、そう逆に質問をした
うん、ガイドさんって、大変そうだから、なぜかなって、
こんな夕日を見るためですよ、ってキザ過ぎますよね、
そう言ってシンゴは
嘘じゃないんですよ、ただ正確に言うと、こんな夕日を、いろんなところで見てると、自分が愛おしく思えるんですよ、
ナルシストなんだ、
いえ、そういうんじゃなくて、自分をしっかりと、自分の速度というか領分で、確認できるって感じが好きなんです、変ですかねえ、
日本帰ったら飯でも食いに行きましょう、
サエキさんはそう言ってまたじっと西日を眺めなおした
シンゴは自分が旅の好きな学生だった頃を思い出していた
日本いがいの場所にいると自分がここにいるという感覚が実感として湧いた
旅を経て日本に戻ると今度は日本にいてもその感覚が湧いた
シンゴは中学に入るまえに親と死別し親戚夫婦のもとで育てられた
そのこともガイドになったことと関係しているような気がする
でも、今のオレはどうだ、全然じゃないか、
自分が今どこにいるのかに興味を失ってしまっているのだ
ヨシミ、ヨシミ、ヨシミ、
シンゴはそう呟いて前をすぎるひとを目で追っていた
影絵のようだ
それを目で追っているともういくら歩いてもヨシミに会うことは出来ないのだと思った