音のない洞窟( マレーシア到着編)
吉岡ペペロ



クアラルンプールからまたさらに飛行機で2時間半揺られて現着したときにはもう夜の10時になっていた

お客さんたちも少々疲れている

シンゴたち一行が空港から出ると小雨が降りはじめた

きつい排気ガスの臭いがする

それが湿度と混じりあって息ぐるしかった

バスの窓から人気のない暗い町並みを見つめた

水上生活者たちの暮らす明かりが河に花火の色で滲んでいた

なんど口に出してみても覚えられない工業団地近くの三ツ星ホテルに泊まることになっていた

ホテルの名前すら覚えられない

気乗りのしない仕事だからだろうか

いやちがう

日程表を見ながらでしかシンゴは今自分がどこにいるのかが分からなかった

自分がどこにいるのかということに興味を失っているのだろう

こんな精神状態は仕事がらありえないことだ

シンゴはため息をついた

ヨシミを見失っていらい恐慌におちいっている自分を思った

それでも仕事はこなしていた

いまもこうやってマレーシア企業視察団一行を引率している

違和感があった

いつでも倒れてしまえそうだった

シンゴは深呼吸のようなため息をつきながらそう思った

ホテルは思いのほか清潔で天井も高くお客さんも喜んでくれた

明るいハスキィボイスのマイウェイが聞こえる

ロビーにあるバーで生演奏がおこなわれていた

部屋に入るまえに一杯やってしまいましょうかということになった

バーに進んでゆくと

ああ、こんなところにも青が、

バーのなんでもないところの一部が青いひかりで装飾されていた

悲しかったんだよ、ヨシミ、悲しかったんだよ、オレ、

シンゴはその青に突撃するようにお客さんを先導して進んだ

あの青を、ひとりぼっちに出来る訳ないじゃないか、

アルコールをやりながら寛ぐお客さんたちに明日の集合場所と時間の確認をしていった

あくびがなんどもでた

シンゴは涙のようなものを流しつづけそれをそっと拭きつづけていた

バーの青い装飾を見つめた

さっきの水上生活の明かりが青一色であったような気がした

そしていつものように、ヨシミ、ヨシミ、ヨシミ、と唱えはじめていた

これほどの孤独のなかにまだ青という色を見つけている自分が大丈夫であるのかそうではないのか分からなかった


携帯写真+詩 音のない洞窟( マレーシア到着編) Copyright 吉岡ペペロ 2011-08-19 07:00:01
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