ち よ
砂木

おばちゃん 忘れ物だよ と
玄関から 姪っ子の アッシュが
車に乗り帰りかけた私に叫ぶ
四歳の女の子が 握りしめてきたのは
実家の回りに茂る草をむしって入れた
透明なビニール袋 ふたつ
はいっ と喜々として渡すので
どうもありがとうと受け取った
私と夫のために 自分でむしった草を
おみやげにくれたのだった
アッシュったら

共稼ぎの弟夫婦は時折 子供を実家に預け
祖父母に子守りをして貰う
盆礼に訪れた私と会うのは久しぶりだった
おー と手をあげると はにかんで手をあげた
おずおずとおもちゃを貸してくれるので
一緒に遊んでいると 私の手を握り歩きはじめる
小さな姪に おばちゃんと言われるのは嬉しい

おままごとでもしようかなと 笑って貰った草を見る
でも今 放射能で危険な区域では 草も持ち出せずに
どうにもならないような事態になっているのだ

十年後 二十年後 三十年後
この草が私に残る意味は大きいかもしれない
そうであって欲しくはないけれど

アッシュの未来はどうなるのだろう
核シェルターも防護服も放射能を計る装置も
おみやげに渡せるようになるといいのだけど

アッシュ おばちゃん はっぱは大好きだよ
いつまでも持っているよ 大地よ



 


自由詩 ち よ Copyright 砂木 2011-08-16 14:10:33
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