未成年の主張
伊月りさ

卵は
白身が透明でいるのが礼儀正しいことだと思っていて
黄身は水毬のようにやわらかくあるのが正直だと信じていた
あの日々のわたしは
うまく立てない殻のまるみを遺伝子のせいにしていた

好きにしていいのよ、という母は
あの子の嗜好さえ矯正してきたから笑える
この羽を不格好という
揶揄を否定しないので
飛べない子どもは足さえなくす

わたしも あなたも
ひとつのボールに割り入れて
かきまぜるのが愛だと唱えていた
会いたい、会いたい、
箸が当たる高音、はだか、
みっともないと知りながら
みんな叫んでいるじゃないか

みんな叫んでいるじゃないか
道程のどこかで
草むらの湿りを嗅ぎながら、肺を濡らしながら、届きもしない空に向かって、
ちいさな口、よごれた気道、つなぎたい、
つなぎたいと思われたい、と
それだけだ、あの日々のわたしは
あなたの羽が一瞬
平等な日光のなかで
はじめての反射角を成したことに胸が震えたのだ
ということを あなたに
みんな伝えたいだけじゃないか

わたし崩れたい、
なんて
大地にだれが言えるだろう
自由に飛んでほしい、と母親は言う
わたしを強く蹴って、と
言う母は いつも
蹴られると顔をすこし歪める
飛翔距離を測る
わたしのさまざまな舞いを頻繁に
独創的だというのは毒だ

殻なんていらないのに
だれも信じてくれないから
融合せずに生きてみせる、と
みんな騙されていく立像だということ
遺伝子のせいにしている


自由詩 未成年の主張 Copyright 伊月りさ 2011-08-01 16:31:51
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