頑固堂書店購買部
……とある蛙

跛(びっこ)をひいた男が独り
本屋の軒先を横切る
そこが本屋の軒先であることなど
全く意にも介さず

杖をついた老人が本屋の中から出てくる。
一冊の本を購入するでもなく
じっくりと日課の立ち読みはしたが、
また散歩のルートに戻る。

車椅子に乗った男が
本屋に入ろうとする。
残念なことにその本屋の間口は狭く
車椅子の男は車椅子ごと本屋に入ることが出来なかった。
車椅子の男は本屋を呪った。

本屋の前は裏通りで
道行く者のほとんどが興味を示さない
たまたま興味を示す変わり者を
本屋は断固拒絶する。
この本屋は断固拒絶する。
本屋は週刊誌を置いていない
本屋はコミック本を置いていない
本屋はハウツー本を置いていない。
本屋はベストセラー、小説もを置いていない
本屋は文庫本を置いていない
本屋は参考書を置いていない
ありとあらゆる売れる本を置いていない。

店の奥の帳場の前で
はげて眉毛の濃い
律義な黒縁メガネをかけた
店主らしき爺さんの顔に
ほほ笑みらしきものは一切無い。

本屋は世界文学全集が置いてある。
本屋は世界哲学全集が置いてある。
本屋は現代詩人全集が置いてある。

店主らしき爺さんに
声をかけると
少し間を置いて
にやっと笑う。

「完璧でしょう」

何が??


自由詩 頑固堂書店購買部 Copyright ……とある蛙 2011-07-27 16:01:08
notebook Home 戻る  過去 未来