お日さま色の猫
yumekyo

京の街中に引っ越してきたのは
師走に入った頃でした
世間も僕も慌しい頃でした

東向きのベランダの彼方には
百年の風雪に耐えてきた
銀瓦の低い峰々が連なっていました
午後の北山時雨が止むと
谷間から小さな陽だまりを目掛けて
お日さま色の猫が一匹飛び出してきました
ベランダの僕を見つけて
お前は何者や とばかりに一瞥を投げかけてきて
悠然とひなたぼっこを始めるのでした
肉付きの豊かな猫でした

葵祭の 次の日に
ベランダで風に当たっていた僕の前に
ひょっこりと お日さま色の猫が姿を現しました
お日さま色の猫は
すぐ隣にガールフレンドを従えて
銀の峰々を闊歩していきました
お日さま色の猫のガールフレンドは
黒毛にほんの少しだけ灰白色を取り混ぜた
月夜色の猫でした

東山が赤黄に燃え上がる頃には
新しい職場もすっかり落ち着きました
ベランダで布団を干していた僕の前に
ひょっこりと お日さま色の猫が姿を現しました
お日さま色の猫は 月夜色の猫を従えていました
そしてややあって 子猫が一匹歩いてきました
既に気品に満ちた足取りの
お日さま色の子猫でした

お日さま色の猫は
この町に棲む猫たちの王様だそうです
やもめ同士 すっかり仲良くなった
床屋のおっちゃんが話してくれたことです


自由詩 お日さま色の猫 Copyright yumekyo 2011-07-25 23:40:14
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