野球の規則
DNA



 (崩落する車輪
   から滲み出た
暗い空 が二つに
   わかれ
   水星の前輪と金星の後輪で
   疾駆する 子盗りの
   群れ)

おまえがうまれそこなわずにすんだときいておれもうまれてくることにした おれたちのあいだには野球の規則がよこたわっており しかしおれはおまえがよもや野球をえらぶなどとはおもいもせんかったから おまえが野球の規則をぬりかえることに 精魂こめとるなどと はなからしんじておらず てっきり競輪選手になるために にちや自転車をこいどるものとおもとった 野球の規則はおまえに半分属しておって 子盗りと一緒におまえがきえてしまいよった日 おれは出発したのだ どこへ? 指先へか? (指のきっさきに何があるというのか) おまえはおまえのつむぎだすはずのことばから中産階級のにおいがのぼりたつのにいらだつ 殺虫剤を紙のうえにまいて ひとつひとつことばを仮死の状態にして しかし最初からしんでいるのだ おれはしにかけの生きものの胴体をゆさぶって 「おきろっ」と喚いているに等しい かなしくもなく 誤認。 サクゴハムコウニシテ、でかけよう おまえは残酷な球の投げ方をするだろうから すぐにみわけがつく (おれはいま病院にいて 三連音がひっきりなしに壁のうえからひびいており サインプレーをだしつづけるのだ 三日間だ ((おまえにはとどかないだろう こんな静寂にみちた緑色の部屋からは トイレからみえるポプラはいつのまにやら刈りとられ おれは おれの手足と眼玉を接ぎ木して おまえをさがしにでかけるんよ 暗い夜だ おまえがうまれそこなわなかったかわりに おれはしにそこなったのかもしれない (((嘘です ソレハギモウコウイデショウ? 病人がだんけつしてひとりひとり ここからぬけださせ おれにも おれのじゅんばんがやってきて おそとにで 三年間だ おまえをさがしつづけ 

  *

きょう 審判はタイヨウの暴発を悟って ナインを避難させた (ここはどこだ? あすこだ) おまえの投げた球は まっくろにこげきっており おれは (たぶんわらいな/きながら) 丁寧にマウンドにそれを埋めた   
 
「おれとおまえ 野球の規則をぬりかえるために 恋人になったとしったら いったいなんにんの にんげんが一笑にふして くれるんやろか (あほな おまえのせいで もう半分はおれのせいで だれも夏に野球なんてやらんなってしもたよ 

  *

ここは緑色した壁に囲われた小さな部屋です ひんやりとした感触のほかにわたしの楽しみはありません 今年もまた夏がきたのですね わたしは夏になるときみとみた子盗りの群れをおもいだします お元気ですか またいつか野球ができる日のくることを楽しみにしています


自由詩 野球の規則 Copyright DNA 2011-07-23 12:02:54
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