「自殺未遂」
桐ヶ谷忍

火宅、忍土、穢土 

憂き世、苦界、六道界・・・

現し世を表す言葉の群れ
生きることはすなわち
耐え忍ぶこと



包丁を左手首に当てた時は
そんな言葉達も忘れていた
何も
何も考えてなかった

絶望したんじゃない
絶望なんて本当には
この世にはないんだ
あるのは
底なしの悲しみだけ

お父さん
節電を叫ぶ今夏に向けて
父の日に扇子を贈ったけど
「お前は本当変なセンスしてるよな
こんなの使わねーよ」
あの時
「お前なんかいらねーよ」
って聞こえたよ私には
幼い頃から何を贈っても
いつもケチをつけて
あなたが本当に欲しかったものは
私の名が刻まれたお墓だったのかな

お母さん
「もう実家には来ないで」
実家に来るとお前の病気が悪くなるでしょう?
って気遣いの言葉の裏に隠された
厄介者を追い払いたい気持ち
やっと言えて良かったね、って云うべきかな
実家に帰ると確かに私の病気は悪化するけど
あなたとお父さんが共謀して
そうさせていたんじゃないか

否定
存在の否定

生まれた時から
赤子の私の泣き声のうるささに夫婦で散々罵り合いを続けてきたって
聞かされた時の私の気持ち、想像すらしてくれないんだね

ねえなんで
そこまで私を疎んじておきながら
私を生んだのかなあ

包丁の刃、ちゃんと研いでおけば良かった
死に損なっちゃってごめんなさい
すぐ退院できる程度の傷しか作れなくてごめんなさい



火宅、忍土、穢土

憂き世、苦界、六道界・・・

呪文のように頭の中でリピート



生きててごめんなさい
私が死んだら
その時こそ愛してもらえるのかな


自由詩 「自殺未遂」 Copyright 桐ヶ谷忍 2011-07-14 16:08:37
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