杭と碑
長押 新


突き刺さった杭の代わりに、あなたたちのその細い骨が刺される。
まだ墓ではない。
杭のために動くことが出来ずに、頭と口を交互に動かしながら、わたしはいた。
水槽に沈められたり、瓶に閉じ込められるように、耳鳴りがする。
盛り上がる、あるいは膜を破りあらわれるように、黄色い腕が、伸ばされ、胸に触れる。
手は、開かれて、幸いにも、痛みが、意識を導いていた。
ひきつけられるような痛みに、あなたたち、が現れるまで、全く気がつかないで、そもそも、わたしは何故立たされているのか忘れていた。


(おさなかったころから、きょうふしていた。ははに。ははに。ははに。こーらをあたまからかけられたときは、おもらししたくらいだ。しょくじはとくにおそろしかった。せんたくきでねむるのはいたい。わたしのものはすべてあげた。すべて。すべて。あいしているから。じかんとおかねとわずかなちしきをあげた。そだててくれてありがとう。ははに。ははに。ははに。若い母に。あさからよるまでたたされていたときのあしのうらのいろ。なかなくなるまでなぐられたはらのあざ。くびすじにつきつけられたはさみ)


あなたたちは、訪れる。
幻想や永遠とを怖がるわたしが、想像死してしまうことに、わたしよりも前に、あなたたちは気がついていた。
あなたたちは、訪れる。
杭はとても痛い。
あなたたちは、決して口を開かない。
すっかり衰弱したわたしも口を開かない。
開かないにしろ、本当に大事な時に、女に言葉は必要がなかった。
わたしの体から湿った杭が抜かれ、その代わりにあなたたちの骨が、わたしの胸に刺される。
体が持ち上がる。
捨てられた杭の行方を、鼻で追う。
厳しい罰を受けていたのか。
母の匂いのする杭は古く、憎悪のようにつらい、と転がっていく。
その代わりに体を、剥がした。
まだ墓ではない。
あなたたちが、わたしの手をひく。
その手には指がない。
わたしの胸に、あなたたちの、その指の、その骨が刺されている。
鼓動に合わせて、ぴくりぴくり動いている。
まだ墓ではない。
数年経っても、あなたたちの指は生えてこない。
胸に開いた穴からは景色が見えていた。
骨を土に植えてやる。
やがて子供が生えてくる。
骨はもともと死を考えてはいない。



自由詩 杭と碑 Copyright 長押 新 2011-07-09 09:32:09
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