思想シーソー
草野春心




1.社会


  職場に社会があり
  学校に社会がある
  家庭に
  託児所に
  公園に社会がある

 夕餉の時間
 うつろなサイレンとともに
 社会の炊ける匂いがする




  政治家に社会があり
  サラリーマンに社会がある
  専業主婦に
  予備校生に
  フリーターにも社会がある
  詩人にあり
  ホームレスにある

 女たちが話す
 贈り物なら社会がいいわ
 グッチ製の社会、ヴィトンの社会
 それともヴェルサーチ製の社会




  男に
  女に
  精子に卵に社会がある
  猿山に
  蟻の巣に
  微生物に
  細胞に社会がある

 ガガーリンよ、
 社会は何色だった




  外皮に
  内臓に
  社会があり
  捲っても
  破っても
  社会地獄
  (ある者には天国?)
  そして勿論
  地獄にも天国にも社会がある
  上を見ても下を見ても
  社会宇宙


 2.一個人


  切り株のうえに
  ちょこなんと載せた
  おまえの一個人



  轆轤回して
  釜戸で焼いた
  おまえの一個人



  隠居爺の戯れと
  自ら嗤う
  おまえの一個人



  今日もおまえは
  風呂敷いっぱい
  一個人を背負って
  だらだら山を降りてゆく


 3.天秤


  空と海……
  その蒼さも
  途方もない重さも
  天秤にかけるに忍びない



  鳥が虫を食み
  人が鳥を絞めるとき
  私は頬杖をついて
  あなたのことを考える
  存在とは
  生まれながらの慰みもの



  それでいいのかと
  なにかが問う
  風ではない
  宇宙でもない
  なにかが問う
  それでいいのかと
  果てしなく問い続け……
  その渦の最中でわれわれは生きている



  それでいいのかと
  問われて私はなお
  頬杖をついたまま……


 4.爆発


  (全部、

  (全部、

  (黙れ。

  (全部、

  (全部、
 
  (止め。




自由詩 思想シーソー Copyright 草野春心 2011-06-25 10:18:22
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