ジュブナイル
山中 烏流
必要性に応じて生きている
大人たちの叫ぶ声で
雲の影は去った
君が泣かないために
氷砂糖と毛布を買って
家に帰るけれど
本当は、君の好きなものを知らないし
そもそも
君なんて居ない
*
海になりたい、と言う
彼女は
私の腕を引き連れて
ゆっくりと沈んでいった
朝に
ざわめく、生い茂る私にもがきながら
小さな口で
その、身体を、細かく、千切っては
砂の街
幼い頃の彼女に似た女の子は
笑う
蜃気楼のような波が立つと
ほとんどのものが
遠くの方で手を振り出すから
波間には
彼女の声だけが残り
例えば髪や、爪、耳も匂いも
街へ
消えた
*
次の駅で始まるのは緩慢な物語で
と、彼は話し出す
そこに間に合うため
背負った鞄を線路へとほうって
時計の針を
三秒だけ止めると
支柱の麓に用を足す男が
こちらを見つめて
笑う
そして彼等は手を繋いで
どこにも停まらないと評判の電車へ乗り込み
そのまま
帰ってしまった
*
小さな器のような
叩きつけると、音もなく割れる
生き物
さよなら、
私は君のことを
愛しているなんて言ったけれど
多分その言葉だけは
嘘に違いない
*
紫の空だ
風船に似た
危なげな船の上で抱き合って
そのまま
生きることを止めなかった
僕等に
それはよく似ていて
どんな場所からも
すすり泣く声が聞こえるから
どこまでも
どこまでも
君は、歩いていった
自由詩
ジュブナイル
Copyright
山中 烏流
2011-06-18 02:07:11
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