ジュブナイル
山中 烏流





必要性に応じて生きている

大人たちの叫ぶ声で
雲の影は去った

君が泣かないために
氷砂糖と毛布を買って
家に帰るけれど
本当は、君の好きなものを知らないし
そもそも
君なんて居ない





海になりたい、と言う
彼女は
私の腕を引き連れて
ゆっくりと沈んでいった
朝に
ざわめく、生い茂る私にもがきながら
小さな口で
その、身体を、細かく、千切っては
砂の街
幼い頃の彼女に似た女の子は
笑う
蜃気楼のような波が立つと
ほとんどのものが
遠くの方で手を振り出すから
波間には
彼女の声だけが残り
例えば髪や、爪、耳も匂いも
街へ
消えた





次の駅で始まるのは緩慢な物語で
と、彼は話し出す

そこに間に合うため
背負った鞄を線路へとほうって
時計の針を
三秒だけ止めると
支柱の麓に用を足す男が
こちらを見つめて
笑う

そして彼等は手を繋いで
どこにも停まらないと評判の電車へ乗り込み
そのまま
帰ってしまった





小さな器のような
叩きつけると、音もなく割れる
生き物

さよなら、

私は君のことを
愛しているなんて言ったけれど
多分その言葉だけは
嘘に違いない





紫の空だ

風船に似た
危なげな船の上で抱き合って
そのまま
生きることを止めなかった
僕等に
それはよく似ていて
どんな場所からも
すすり泣く声が聞こえるから
どこまでも
どこまでも

君は、歩いていった










自由詩 ジュブナイル Copyright 山中 烏流 2011-06-18 02:07:11
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