BEE
たもつ




触覚の先端ではもう無くしたての繊細な産毛
 幾千とおりの声が転回を始めている
  その閃光は深く深く脳を焦がし
   僕の両手から溢れるハチミツを虹色に染め
    やわらかく着地を始める そして舐める 

 薄透明な羽に浮かぶ葉脈のような羽脈
  ジョン と呼んで アン と犬は吠えた
   犬の名はジョンではない
    何と呼んでも アン と吠える犬
     ジョン 淋しいジョン
      シカゴの埃くさいマンションの一室で朝を待ちきれずに
       大好きな四月の暗闇の中にダイブしたジョン

  複眼を構成する眼 そのすべてに僕は映っているか
   重たい瞼に耐えかねて世界を遮断してはいないか
    たとえば恐怖 たとえば怒声 たとえば懇願
     僕は映っているか 僕は見ているか
      たとえばダイブ ジョンのダイブ
       誰も見届けなかった 淋しいジョンのダイブ

   花を見つけられないミツバチが柔らかな空気のなか
    透明なコップの縁にとまっている
     ジョンと呼んでも返事をしない それはもっと別の音
      僕を刺して絶命していったたくさんのミツバチたち
       かつて僕はその毒嚢で溺れたかった
        気がつけばジョンもミツバチも消えている
         コップから僕がこぼれ始める





自由詩 BEE Copyright たもつ 2004-11-12 15:14:11
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